クラウド # HA・DR # PVS One # PVS One iDR # IBM i (AS/400)

本記事は、BCP(事業継続計画)や災害対策について解説するシリーズの第5回です。前回の記事では、データの隔地保管をクラウドで実現する「PVS One iDR」をご紹介しました。今回は災害対策レベルをもう一段階上げたいお客様向けの「PVS One iDRオプションサービス」を詳しく解説します。
1.クラウドで実現するIBM i の災害対策のレベル
前回の記事では、災害対策の最重要課題であるデータの安全な遠隔地保管をPVS One iDRで実現する方法をご紹介しました。オンプレの機器でも、クラウド上の仮想サーバーでもPVS One iDRを利用してクラウド上に簡単に重要データを遠隔地保管することができます。
少し古い表になりますが、1992年に米国Share GroupとIBMで定義されたモデルをベースにして定義されている災害対策の実施状況の指標です。各レベルの内容によりRTO/RPOがおおよそ決まります。災害対策を何もしていない状態またはサーバーと同じ場所にバックアップを取っている状態はLevel 0です。
iDRの基本サービスで実現できるのはLevel 1になります。イメージとしては、毎日テープをトラックで遠隔地に運んで保管する方法です。本番サーバーが被災してもデータは隔地保管していますので、復旧はサーバーの準備から始めます。そのためRTO(Recovery Time Objective:回復目標時間)は数週間以上となります。
PVS One iDRのオプションサービスは、Level 1の災害対策をさらにレベルアップしてLevel 2~3を目指すお客様へのサービスにです。
2. PVS One iDRの基本サービスとオプションサービス全体像
2-1. PVS One iDR基本サービス:データの隔地保管でRTO数週間以上
PVS One iDRの基本サービスは次のような構成になります。
オンプレミスのサーバーで仮想テープイメージまたはSAVF形式でバックアップをを取得後、クラウドストレージ(IBM Cloud ICOSなど)や遠隔地のストレージにバックアップイメージファイルを転送します。これによりバックアップデータの隔地保管を実現します。
ただし、被災時にはバックアップデータしかありませんので、稼働させるサーバーの調達や構築から始めることになります。RTOは数週間以上になりますが、データは存在しますので、復旧は可能です。災害対策の第一歩として重要な手段となります。
2-2. PVS One iDR オンプレミスボックスオプション:ローカルキャッシュで転送負荷を軽減
オンプレミスボックスオプションもご用意しています。これは、サーバーの隣に設置するテープ保管庫のようなイメージです。バックアップを仮想テープイメージやSAVFに保管後、オンプレミスボックスにCOPYまたはFTP転送でオンプレミスボックスに保管し、クラウドや遠隔地ストレージに同期コピーします。
・バックアップデータの遠隔地転送の制御(帯域制御/送信時間制御)を行いたい場合
・遠隔地への転送にサーバーの能力を使用したくない場合(例:夜間にIPLの実行があり、転送をシステムと切り離したい)
・IBM i のシステムのディスク容量に限りがあり、ある程度のバックアップデータはサーバーの近くに置いておきたい場合
バックアップイメージファイルは数十GB、場合によっては数百GBになる場合があります。
数日前の日次バックアップデータを参照するたびに、遠隔地から大きなテープイメージファイルをインターネットやWANネットワーク経由で転送するのは時間、労力や転送負荷がかかります。これらの課題を解消するため、オンプレミスボックスのオプションをご用意しています。保管容量は約7TB~ですが、容量に応じたお見積りとなります。
2-3. PVS One iDR RTO短縮(サーバー準備)オプション:RTO数日~1週間を目指す
災害対策レベル Level 2~3を目指すお客様には、災害対策システムをクラウドに準備するオプションもご用意しています。iDRの仕組みを構築する際、またはiDRの基本サービスをご利用いただいてから、IBM Cloudに災害対策システムを一度構築します。構築後システムの稼働確認を行ったら、IBM Cloud上に作成した災害対策システムのディスクイメージを丸ごとコピーします。
コピーが完了したら、災害対策システムのVMを削除します。これにより、月々のPower System部分のクラウドの課金はディスクイメージ分のみとなります。さらに、月々の価格を下げる場合は、ディスクイメージファイルをICOSにコピーして、PVS上のイメージファイルも削除します。
DR発動時や訓練時にIBM iのVMを立ち上げたい場合は、ディスクイメージを使ってIBM i のVMの設定を行い、システムを立ち上げます。PVS環境にディスクイメージがあれば、立ち上げは2~3時間で行えます。(ICOSからの転送がある場合は、数時間~1日かかる場合があります)その後、日々ICOSに送られてきている日次バックアップイメージをIBM i のVMに送り、ユーザーライブラリーを復元して業務稼働確認を行い、システムが利用可能になります。
基本サービスのみの場合は、災害対策システムのシステム環境設定から行いますので、クラウドのシステム利用でもRTOが長くなります。既にシステム環境設定ができているディスクイメージを事前に作成/保管しておくことで、RTOの短縮を図ります。かつ、平時はIBM iのVMを削除しておくことでコスト最適化も図ります。
この場合、RTOは数日~1週間程度を見込みますが、さらにRTOを短縮した場合は、IBM i のVMを削除しないで日次バックアップイメージを毎日災害対策システムに取り込むことも可能です。
また、一度お客様環境のシステムを作成しておくことで、災害対策や訓練だけでなく、大きなシステム変更の検証環境(例:OSのバージョンアップやアプリケーションの変更など)として利用することも可能です。
本オプションはサーバー・ネットワーク環境の整備が必要となるため、個別にお見積りとなります。
3. 災害対策発動時のネットワークの準備
オプションサービスを利用したRTO短縮には、ネットワーク環境の準備も必要です。もはや「IBM i と5250の端末だけあれば業務が回る」という時代ではなくなっています。IBM i は多種多様なネットワークを通じて、外部サーバーや外部サービスと連携して業務を成り立たせています。iDRにかかわらず災害対策を行う上では、どの業務を災害対策発動時に行うか決めておき(RLO=Recovery Level Objectiveの設定ということもあります)、その業務に必要なネットワーク経路を考慮しておくことが必要です。
災害対策発動時に利用するサーバーは、平常時の稼働場所とは異なる場所となり、異なるネットワークに接続されます。クラウドサービスとはいえ、リージョン(東京/大阪)が異なる場合は「社内ネットワークからクラウドへの接続」「サーバーの所属するサブネット」「サーバーのIPアドレス」が異なることが通常です。
東京リージョンに本番機があり、大阪リージョンに災害対策機があっても、ネットワークの接続が東京しかない場合、大阪リージョンに災害対策機を稼働させてもどこからも接続ができず、業務が回らない、といった事態に陥ります。災害対策発動時に業務に必要なネットワーク(社内ネットワーク、Internet、他クラウドへの接続等)を洗い出して準備しておく・代替策を講じておく、あるいはコスト面からその業務をあきらめることを検討することが必要となります。
クラウドサービスを利用するにあたって考えることの多いネットワーク接続ですが、MONO-XではPVS One X2というソリューションを提供しており、柔軟なクラウド接続を構成することが可能です。
4.オンプレマシンで利用のケース
オンプレマシンで利用している場合は、発動時に新しい機器を手配してそこに退避しておいたデータをICOSからダウンロードして復元するという形がわかりやすいと思いますが、クラウドマシン同様にPVS上にイメージを準備しておいてDR時はPVSを利用するという形態をおすすめします。もちろんネットワークは考慮する必要がありますが、以下のような利点があります。
・機器の調達リードタイムがない
当然ながらクラウドサービスなので、使いたいときにすぐデプロイして使い始めることが可能です。災害対策発動してからHWを手配して、設置・設定して稼働させようとするとあっという間に数か月かかってしまいます。
・災害対策訓練を安価に実施できる
DR発動を想定してイメージのダウンロード/デプロイからデータの復元までを行い、訓練後はイメージごと削除をしてしまえばサーバーのコストは訓練の時間だけです。物理的な災対機の準備が難しく訓練が机上でしかできていなかったというお客様もこの方法であれば実機を使った訓練が安価に実施できます。
・災害対策以外の検証などにも使える
例えばバージョンアップやPTFのテストをしてみたいといった場合、これまでは開発機のフルバックアップを使ってバージョンアップのテストを行ってフルバックアップを戻すということをやっていたケースもあったかと思います。このような検証もクラウド上のイメージとiDRのデータを使って手軽に行うこともできます。また、既存システムをクラウド上に移行したい場合にもクラウドへのデータリフトとして利用可能です。
5.PVS One iDRで始める、無理のないIBM i 災害対策
今回は、クラウド上に遠隔地保管したデータを活用し、特にクラウド上にIBM i を復元して業務を継続する場合のオプションについてご紹介しました。前回紹介した『最重要なのはデータの遠隔地保管』からさらに一歩進み、災害時にそのデータを用いてIBM i を復元し、業務を稼働させるイメージを持っていただけたのではないでしょうか。
災害対策は、最初から高い目標を掲げると予算オーバーで頓挫するケースが少なくありません。限られた予算で取り組む場合は、まずPVS One iDRの基本サービスでデータの隔地保管を実現し、翌年度以降に段階的に対策レベルを引き上げていくアプローチも有効です。
災害対策を検討する上でのポイントは、『データの遠隔地保管』『災害対策発動時のクラウドマシン準備』『クラウドへのネットワーク接続』の3点です。MONO-Xは、IBM Cloudに関する豊富な知見と多様なソリューションを組み合わせ、お客様に最適な災害対策をご提案できます。まずはお気軽にご相談ください。
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